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世界のサッカーへのリスペクトはあるか? ~いつも心にリスペクト Vol.158~
2026年07月24日

アメリカでのFIFAワールドカップは2回目になります。1回目は1994年、32年前のことでした。日本代表は前年の「ドーハの悲劇」で初出場まであと数十秒まで迫りながら逃し、これまでのところ、最後の「日本代表不在のワールドカップ」でした。
出場24カ国。主催の国際サッカー連盟(FIFA)が最も懸念していたゴール数は、4年前の1試合平均2・21から大きく増えて2・71となり、以後2022年カタール大会までの7大会ではこの数字は超えていません。
何より、全52試合で358万7538人という入場者数を記録したのが、「USA94」の最大の成果でした。次の98年フランス大会から出場が32カ国となり、総試合数は23%も増えて64試合になりましたが、2022年大会までこの記録を上回った大会はありません。もちろん、1試合平均6万8991人という数字も、他を大きく引き離すワールドカップ全22大会の最多記録です。
このように、数字だけを見れば94年アメリカ大会は大成功と言ってよかったのですが、現地で取材していると、大きな違和感を抱かざるを得ませんでした。
通常はアメリカンフットボールで使われる巨大スタジアムはファンで満員になり、素晴らしい雰囲気でした。しかし一歩、本当に一歩スタジアムを出ると、そこにはアメリカの日常生活があるだけで、「人類のお祭り」と言っていい雰囲気など何もなかったのです。
「ここに何しにきたの?」
「ワールドカップだよ」
「へえ、何それ?」
会場となった9都市の一つで私が実際に経験したタクシーの運転手との会話です。
他の国での大会では、道路も商店街もワールドカップの飾り付けでカラフルに彩られ、繁華街には世界中からきたユニフォーム姿のファンが繰り出し、言葉など通じなくても互いの国を応援して交流が行われます。ところが94年のアメリカにはそんな雰囲気のかけらもありませんでした。世界的なスポーツの大会が自国で開催されているという知識は、多くのアメリカ人にあったかもしれません。しかし「人類のお祭り」には、最後まで出合うことができませんでした。
さて、今回はどうでしょうか。32年前と比較すると、アメリカでもサッカー人気が高まり、代表チームも見違えるように強くなっています。アメリカの組織委員会は、FIFAや各開催都市の組織委員会と協力し、世界中からやってくるサッカーファンを出迎えようと準備に余念がありません。ドイツで開催された2006年大会以来、ワールドカップの重要な要素となった「ファンフェスティバル(スタジアム外で何万人ものファンが集える会場)」も計画されています。ワールドカップに関するアメリカ国民に対するPRも行き届いており、今回は「何しにきたの?」などと聞かれることはないでしょう。
これまでのワールドカップでは、例外なく、それぞれの開催国が国を挙げて世界中からのサッカーファンを歓迎する姿勢にあふれていました。ワールドカップ観戦は世界のサッカーファンにとって一生の夢であることを理解し、その夢の体験を生涯の宝にしてもらおうと、さまざまな努力を払ってきたのです。中でも、過去2大会、2018年ロシア大会と2022年カタール大会の国と国民を挙げての温かなホスピタリティーは、忘れることができません。
それは、世界中の人々を魅了しているサッカーという競技へのリスペクト、そして世界のサッカーファンへのリスペクトの表れだったと思います。32年前のアメリカ大会からはそうした思いがほとんど感じられませんでした。それが私の「違和感」の理由でした。
政治面、社会面で難しい問題があるかもしれません。しかしそれを乗り越え、世界中の人々がサッカーでつながり合えるのがワールドカップという名の「人類のお祭り」です。32年の年月を経てアメリカが迎える2回目のワールドカップ。サッカーと世界のサッカーファンに対するリスペクトの姿をぜひ見たいと思うのです。
寄稿:大住良之(サッカージャーナリスト)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会機関誌『JFAnews』2026年6月号より転載しています。
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